発達障害の母

うなずく私に


「ちょっと、トイレ!」


そう言って雅ちゃんは立って行った


雅ちゃん、あんな風に言ってたけど

浮気したり、遊びのうちは結婚してたほうが

やりたい放題できるからさ

あそこの旦那たち悪いんだよ

独身の素人のお姉ちゃんばっかり引っ掛けて

相手を本気にさせると

結婚してるからって逃げるのさ

けど、今回は金持ちの医者の

後家さんを捕まえたらしくって

離婚して億という金をもらおうって魂胆さ

お姑さんもそれに賛成で

子供ができなかったんだから

慰謝料も出さないっていわれたらしいよ」


そんな、話、サスペンスドラマだけの

話だと思っていたら

本当にあるんだとびっくりした


「ね、その医者の後家さんって

星田医院の話?」

発達障害の母

私は穴があったら

入りたいくらい真っ赤になる

小学校中学、そして、

高校は算数ができなくても

入れるような高校に行った雅ちゃん

今の今まで心から軽蔑していたのだが

一瞬にして私の方が

ドット、底辺まで落とされた気がした


「ああ、ごめんなさい」


「いいけどな、別に

うちらんとこには子供ができんかったんや

それで、ばあちゃんにはいじめられるし

旦那は浮気するし」


「若いうちに離婚すればよかったのに」


マスターが気の毒そうに言う


「でもね、うちの旦那は

他の女にも上手いことしか言わないけど

うちにもそうなんや

『子供なんか、いらん

お前さえいればいい』

そう言われると

どんな女が乗り込んで来ても

どんなに外で遊ぼうと

許しちゃうんだよ

それに、旦那から今まで

離婚を切り出されたことはなかった

っていうことはどんな女より

うちが一番大事ってことやろ?」


うんうんと頷きながらはなしをきく

発達障害の母

それを聞いた時の私の顔に

何か表情がさっとよぎったのだろう

小学校をの頃の彼女は

ただ、不衛生で小汚いだけの子供

だった気がするし

中学の時は早くからませていて

髪をカールして来たり

口紅をつけたり

似合いもしないのに男の目だけを機にする

小汚く痩せた女で

私から見たらただただ、不衛生極まりない

女の子だった記憶が蘇った


「そういえば、あんたんところの

おばちゃんが一昨日

美味しい赤飯が出来たからって

うちにパックでくれて

うちのばあちゃんが喜んでたわ〜

髪の毛はいっていたけどな!」




発達障害の母

あ〜ちゃんとは中学までだったよね

うちはなんとか、商業高校には入れたけど

勉強はできないし、ども、そこで隣町の

今の旦那と知り合って

大恋愛をして結婚したのよ

子供さえできてれば何の問題もなかったと思うよ

旦那の家は農家だし

今時でも子供のできない嫁なんて

いらないに等しいよ

旦那のこと本当に好きでね」


すると、マスターが


「ここの旦那、今も結構いけてるからな」


すると、雅ちゃんは嬉しそうに


「そう、高校の時は学校一の

モテ男でかっこよかったから

告白された時は天にも登る気持ちだったよ

あの頃は私も結構可愛かったしね」

発達障害の母

「そうなの。全然知らなかったわ

雅ちゃんは今、どうしてるの?」


「離婚されそうになって

泣きに来てるのよ

ね、マスター」


すると、マスターはとりなすように


「いや、雅子さんところは

旦那が悪いんだから

別れた方がいいよ」


私は何のことかもわからないので

黙って聞いていると


「マスター、酎ハイちょうだい

ジョッキでね」


そう言っていっきにチュウハイを煽ると

私に喋り始めた

発達障害の母

小学校の頃が鮮やかに蘇った
私は今と同じように彼女をバカにしていた
頭が悪かったから
本が全く読めない
彼女に教師が国語の教科書を読ませても
つっかえて読めないから
すぐに朗読のうまかった私が代わりに
読まされたものだった

もちろん、バカにしているなんて
おくびにも出さなかったはずだ
彼女は私の様子を上から下までじっと見つめた
遠慮なんか全くない目だった
少し、酔っているのかもしれない

「ご立派なことね
何しに帰って来ているの?
たいそうご立派になったって
あ〜ちゃんのおばちゃんが
触れ回ってたわ
うるさいほどね」

母のことを言われると
言いたいことも言えなくなる
小学校の頃は
母のことは全く気にしていなかったから
そんなことは考えもしなかった



発達障害の母

それが今日は珍しく来たばかりらしく

私が入っていくと、こっちを向いた

白髪交じりの汚い髪の毛を黒いゴムで縛り

今まで泣いていたかのように顔は濡れていて

それもしみだらけのすっぴん

腹は出ている小太りで、ジャージの上下を着ている

足は一時期はやったクロックスまがいの茶色のスリッパ

靴下は毛玉だらけ

親指のほうは見えないが絶対に破れているに決まっている

私を見ると

 

「あ~もしかして、あ~ちゃん?」

 

小学校の頃の私の呼び名で呼んだ

私も小学校の頃に戻った

 

雅ちゃんだよね!」